◎近隣諸国条項に対する見解と平成21年度調査研究の要点

1)近隣諸国条項の放置は痛恨の極み

 「焔々(えんえん)を滅せずんば炎々(えんえん)を若何せん」という古語(孔子家語)は、我が国が直面している歴史教科書問題の根元を端的に表現している。
昭和
57年の夏、高校歴史教科書の検定で大陸への日本の「侵略」が「進出」に書き替えられたとマスコミが一斉に報道し、それに呼応して中韓両国が猛然と抗議をするという騒動が起こった。
これに対して文部省は、国会において「その事実はない」と明確に否定した。
だが宮澤官房長官は文部省の頭越しに「検定基準を改め、教科書は近隣諸国に配慮する」という趣旨の談話を発表した。
一時凌ぎの外交上のかけ引きで、自国の歴史を歪めるという「禁じ手」を強行したのである。

 初期消火を怠った宮澤談話(近隣諸国条項)は、河野談話(従軍慰安婦肯定)から村山談話(全面謝罪)へと飛び火し「燎原の火」となって現在に至った。
屈辱的な政治判断で正史を歪める過ちを続けている限り、我が国は「侵略国家」の汚名を雪ぐことはできない。

(2)学習指導要領と歴史教科書の乖離

 次に教科書採択の現状を見よう。旧中学校学習指導要領「社会」の目線にも「我が国の歴史に対する理解と愛情を育てる」という記述があった。
だが平成17年の採択状況は我々が推す一社の教科書は僅か0.4%で、自虐的傾向の教科書の合計採択率は99%を超えていた。
 我々は数次にわたる歴史教科書分析の経験から、学習指導要領と教科書の著しい乖離及び自虐的教科書一色の採択状況の主因は、近隣諸国条項にあるとの認識に立って平成21年度使用中の東京書籍・教育出版・帝国書院・清水書院・日本文芸出版・扶桑社の教科書及び自由社の市販本について、下記の13項目を抽出し、同条項の影響力を確かめることにした。

  @卑弥呼と邪馬台国 A渡来人 B聖徳太子の外交 C白村江の戦い H元寇
  E倭蓮 F豊臣秀吉の朝鮮出兵 G日清戦争 H日露戦争 I日韓併合 
  J満州事変  K支那事変(南京事件) L大東亜戦争(戦争の犠牲)


 結果は自由社本と扶桑社以外の教科書には、近隣諸国条項の呪縛を窺わせる内容が多く、同条項の影響力の強さを改めて痛感し、排除の緊急性を再確認した(本連盟は平成22年5月、この調査研究を別冊『歴史教育を歪める近隣諸国条項』にまとめ刊行した)。
 平成21年の夏、22・23年度使用の中学校教科書の採択が行われたが、移行措置2年間の暫定使用なので、大多数の学校は継続使用とした。
そのため採択は概ね無風状態で、扶桑社プラス自由社本に微増はあったが、自虐的教科書がほぼ100%という大勢に変化はなかった。

(3)逆風に抗して、歴史教育の改善を訴える

 平成18年、安倍内閣によって成立した新教育基本法は第2条(教育の目標)に「公共の精神」「伝統と文化を尊重し」「我が国と郷土を愛する」などの文言を加え、平成20年3月公示の新中学校学習指導要領もそれを受けて「総則」に同じ趣旨の文言を追加した。
また旧学習指導要領「社会」の目標にあった上記の文言は、新学習指導要領に継承されている。

 教科書は学習指導要領に準拠して作成される。学校教育法は教科書の使用義務を定めている。
この規定に沿って教科書が作られ、授業が行われていれば、義務教育学校の歴史教育に歪みが生じることはない。
だがそこに近隣諸国条項という非合理的で学問的根拠のない「超法規的な規制」が立ちはだかれば、歪んだ歴史教育になる懸念は濃厚である。

 新中学校学習指導要領の完全実施は平成24年4月からであるが、検定・採択の年に当たる22・23年は、新教基法・新学習指導要領の趣旨を生かした教科書が浸透するか、旧態俵然の自虐的教科書が蔓延するか、今後の歴史教育の方向を左右する「正念場」である。

 「政権交代」により政治情勢が激変した。歴史教育改善運動にとっては逆風である。
それ故に義務教育学校における歴史教科書の基本的性格として、改めて次の点を強調したい。
 「ヒストリー(歴史)はストーリー(物語)だ」という語呂合わせ的な表現は、歴史教科書の「普遍的な性格」を明快に示している。
単純化すれば良い教科書とは、子供達に日本人としての誇りと自信を植え付ける「国民の物語」になっていることである。
換言すれば、祖国と祖先を定め蔑む教科書は、義務教育学校の歴史教育の教材にはならないのである。


 強い逆風に抗して歴史教育の改善を進めるためには、「同憂の士」を糾合した運動の強化と、個々人の立場に応じた「草の根運動」の広がりが不可欠である。
本連盟は従来に倍する旺盛な闘志をもってその一翼を担う決意を表明し、来年の中学校歴史教科書採択に向けての喫緊の課題として、冒頭の提言を行った次第である。